引っ越しを検討するとき、まず確認しておきたいのが「今の家を、いつ・どうやって退去できるのか?」という点です。
そのときに関係してくるのが「解約予告」というルール。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは賃貸契約を結んでいるすべての人に関わる、非常に重要な手続きです。
退去のタイミングを誤ると、予定外の家賃が発生したり、引越しスケジュールが崩れたりと、思わぬトラブルに発展することもあります。だからこそ、「解約予告」とは何か、どのような契約上の決まりがあるのかを正しく知っておくことが、無駄のない退去と新生活の第一歩になります。
本記事では、賃貸物件を退去する際に必要な「解約予告」について、基本のルールから契約ごとの注意点、実際の進め方までを、はじめての方にもわかりやすく整理して解説します。
そもそも「解約予告」とは?

解約予告とは、借りている賃貸物件から退去することを事前に貸主(大家さんや管理会社)に伝える手続きのことです。
一般的な賃貸契約では、「退去日の●日前までに解約の意思を伝えてください」というルールが定められており、これを怠ると契約が自動更新されたり、家賃が余分に発生したりすることがあります。
解約予告の「1ヶ月前」ってどういう意味?

多くの賃貸契約では、「退去希望日の1ヶ月前までに解約予告を出すこと」と定められています。
たとえば「3月31日に退去したい」と考えている場合、3月1日までに解約予告を出す必要があるということです。
通知の方法は契約によって異なりますが、多くは以下のいずれかです。
書面(解約通知書)
管理会社の専用Webフォーム
メール
何日前に連絡すればいい?タイミングの考え方

「1ヶ月前までに解約予告を出す」といっても、契約の内容や家賃の精算方法によって、ベストな連絡時期は異なります。
たとえば以下のように、契約形態によって注意すべきポイントが変わります。
月末締め・月単位の家賃契約の場合:退去日がいつであっても1ヶ月分の家賃が発生するため、月初に予告するのがもっとも無駄がありません。
日割り精算がある契約の場合:退去日を自由に設定できるケースが多く、柔軟なスケジュール調整が可能です。
〈例〉3月15日に退去したい場合
→ 少なくとも 2月15日まで に解約予告を出す必要があります。
引越しが決まったら、まずは契約書を確認し、できるだけ早めに管理会社へ連絡することが、余計な出費を防ぐポイントです。
契約書で「2ヶ月前通知」など例外がある?

解約予告といえば「退去日の1ヶ月前までに通知する」というルールが一般的ですが、すべての物件がこのルールに当てはまるわけではありません。
契約内容によっては、以下のような例外的な解約条件が設定されていることもあります。◆ 例1:2ヶ月前予告が必要な物件
中には、退去の2ヶ月前までに通知が必要とされている物件もあります。
【例】
「6月末に退去したい場合」
→ 遅くとも4月末までに解約予告を提出しなければならない
築浅物件や法人契約が多い物件でよく見られる条件です。
◆ 例2:1ヶ月前通知+翌月末まで家賃がかかる契約
「1ヶ月前までに通知」というルールは一見シンプルですが、契約によってはさらに**「退去は翌月末とする」**といった条件が加わっていることもあります。
【例】
5月10日に解約予告を出した
契約上は「通知日の翌月末が退去日」
→ 退去日は6月30日、家賃も6月分まで発生
◆ 例3:退去は月末のみ可能
さらに一部の契約では、月の途中での退去ができない(=退去日は月末に限る)と定められているケースもあります。
【例】
6月15日に引越ししたいと考えていた
しかし契約上、「月末退去のみ可」と明記されていた
→ 実際の退去日は6月30日になり、6月分の家賃は全額発生
◆ 定期借家契約にはもっと注意が必要
通常の賃貸契約(普通借家契約)と異なり、「定期借家契約」では契約期間があらかじめ定められており、原則として途中解約ができません。
定期借家契約とは、あらかじめ契約期間が明確に決まっている賃貸契約で、期間が満了すると契約は自動的に終了します。更新のルールがなく、原則として貸主が再契約に同意しない限り、その物件に住み続けることはできません。
また、この契約では中途解約が認められないのが基本です。転勤や結婚など生活環境が変わっても、契約満了日までは家賃の支払い義務が発生する可能性があるため、注意が必要です。
【例】
契約期間:2024年4月1日〜2026年3月31日
契約内容:定期借家契約(中途解約不可)
このような契約では、たとえ引っ越しが必要になっても、2026年3月31日までは家賃を支払い続けなければならないケースがあります。
※ただし、「やむを得ない事情(転勤・病気・介護など)」がある場合は、貸主と協議のうえで途中解約に応じてもらえる可能性もあります。とはいえ、基本的には契約通りに進める前提で計画を立てる必要があります。
定期借家契約は、契約自由度が高い一方で制約も大きい契約形式です。入居前に契約内容をよく読み、「途中で退去できるのかどうか」を必ず確認しておきましょう。解約予告の手続きステップ

◆ STEP 1|契約書を確認する
まずは契約書を確認し、解約予告に関するルールを把握しましょう。以下の点を特にチェックしてください。
解約予告が必要な期間(例:1か月前、2か月前など)
解約通知の提出方法(書面、メール、Webフォームなど)
家賃の精算方法(日割りか月単位か)
退去日の制限(例:月末退去のみ可など)
契約内容によっては、想定よりも早めの通知が必要なケースもあるため、まずは契約書の確認が必須です。
◆ STEP 2|管理会社に連絡する
契約書を確認したら、次は管理会社や大家さんに連絡を取り、解約予告の具体的な提出方法を確認します。
例えば、解約通知は郵送なのか、メールで済むのか、専用のWebフォームがあるのかなど、管理会社ごとに異なります。
◆ STEP 3|通知を提出し、記録を残す
解約予告の通知は、必ず記録が残る方法で行いましょう。よくある方法としては以下の通りです。
書面を郵送する(控えを保管し、配達記録が残る方法で送付)
管理会社のWebフォームを利用する
メールで提出する(送信履歴を保存)
口頭での連絡(電話や店頭での申し出)のみでは、後から「言った・言わない」のトラブルになる恐れがあります。通知内容と提出日が証明できる状態を作っておくことが重要です。
◆ STEP 4|退去立会いと鍵の返却準備
解約予告を出したあとは、管理会社と連絡を取り合い、以下の手配を進めます。
退去立会いの日時調整
鍵の返却方法の確認
退去立会いでは、室内の状態確認(壁や床の傷、汚れ、水回りなど)が行われ、原状回復の範囲や費用が説明されます。事前に気になる点があれば、あらかじめ申し出ておくとスムーズです。
◆ STEP 5|原状回復費用を確認する
退去後にトラブルが起きやすいのが、原状回復費用に関する部分です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、借主が負担するべき費用と自然消耗の範囲が定められています。
不明点や納得できない点がある場合は、すぐにサインせず、内容を持ち帰って家族や専門家に相談するのも有効です。
<注意点まとめ>
解約予告は、書面やメールなど「記録が残る方法」で行いましょう。
予告のタイミングが遅れると、不要な家賃が発生することがあります。
引越し時のよくあるトラブルと対策

ここまで、解約予告のルールや手続きについて解説してきましたが、実際の引越しでは「退去の通知」だけでなく、退去日と新居の入居日をどう調整するかが非常に重要になります。
なぜなら、引越しは単に「今の家を出る」だけではなく、次の住まいにスムーズに移るためのスケジュール全体を考える必要があるからです。
特に、解約予告のタイミングを見誤ると、家賃が重複したり、引越し準備が間に合わなかったりといった思わぬトラブルに発展することがあります。
ここでは、よくある引越し時の失敗例とその原因を挙げながら、解約予告と引越しをどう結びつけて考えるべきかを整理していきます。◆ 二重家賃が発生するケース
たとえば、3月末に旧居を退去しようと思っていても、うっかり解約予告を出すのが遅れ、4月末退去扱いになるケースがあります。そのうえで、新居の入居が4月1日から始まると、旧居・新居の家賃を同時に支払う「二重家賃」状態になってしまいます。
これは特に以下のような方に起こりやすいトラブルです。
引越し先をギリギリまで決めない
解約予告の「1ヶ月前ルール」を忘れていた
契約書に「月末退去のみ」といった制限がある
◆ 引越し業者が予約できないケース
引越しシーズン(特に2〜4月)は、引越し業者が非常に混み合います。退去日が決まっていない状態で物件を探し始め、入居日が直前になって決まると、希望日に業者の予約が取れないことがあります。
その結果、
予定より遅れて引越しせざるを得ない
高額な料金でしか業者が手配できない
といった事態になることもあります。
◆ 入居審査が間に合わないケース
新居の申し込みから入居可能になるまでには、入居審査・契約書の取り交わし・鍵渡しなど複数の手続きが必要です。
一般的に、申し込みから入居までには1〜2週間程度かかることが多いです。
◆ トラブルを防ぐための計画の立て方
引越しの際によくある失敗のひとつが、「新居が決まってから旧居の退去連絡をすればいい」と後回しにしてしまうことです。
もちろん、住まいが確定しないうちは慎重に動きたいという気持ちは理解できます。ただし、あまりに判断が遅れると、解約予告のタイミングを逃してしまい、希望した日に退去できなかったり、余計な家賃が発生したりする原因になります。
そこでおすすめしたいのは、以下のような段取りでスケジュールを立てることです。
「いつごろ退去したいか」を最初に決めておく
その予定に間に合うように、新居探しや入居申し込みを早めに進める
管理会社に事前相談し、仮の退去日でも伝えておくことで柔軟な対応ができるか確認する
退去日が確定していなくても、「○月中には退去を予定しています」といった形で意向を早めに伝えるだけでも、スケジュール調整がしやすくなります。
引越し全体の流れを逆算して動くことが、無駄な出費やトラブルを防ぐ最大のポイントです。まとめ|解約予告の基本を押さえて、損のない退去を!
賃貸物件を退去する際に必要な「解約予告」は、ただの連絡事項ではなく、契約上とても重要な手続きです。通知のタイミングや方法を誤ると、予定よりも長く家賃を支払うことになったり、引越しの段取りに支障が出たりと、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
まずは契約書をしっかり読み込み、自分の契約には「何日前までの通知が必要か」「どのような方法で提出するのか」「退去日は自由に決められるのか」など、具体的なルールを確認しましょう。
また、引越しのスケジュールは退去日と新居の入居日を両方考慮して組む必要があります。余裕を持って行動することが、家賃の二重払いを防ぎ、安心して新生活をスタートするためのカギになります。
ポイントは、「退去日から逆算して、早めに動く」こと。
解約予告のルールを正しく理解し、管理会社とのやりとりも丁寧に行うことで、退去に関する無駄な出費やストレスを避けることができます。
引越しを検討し始めたら、まずは一度契約書を確認し、「いつまでに何をすべきか」を整理することから始めましょう。それが、トラブルなくスムーズな退去と、新しい住まいへの一歩につながります。